三陸・常磐の豊かな海が誇る美味しい水産物をご紹介する「うめぇもん!通信」。その美味さの秘密と、生産者の想いやこだわりのストーリーをお届けしていきます。
Vol.5は、青森県の「小川原湖産大和しじみ」。“食べるしじみ”といわれるその魅力と、独自の漁法についてお話を伺いました!
青森県東部に位置する県内最大の湖、小川原湖。高瀬川によって八甲田山系のミネラル豊富な淡水が流入する一方、太平洋の海水が満潮時に逆流して流れ込む「汽水湖」(海水と淡水の中間の塩分の水を湛えている湖)である小川原湖は、古くから多種多様な水産資源に恵まれ、「宝湖」と呼ばれてきました。
そんな小川原湖の名産品として、シラウオやワカサギとともに広く知られるのが、しじみです。全国有数の生産量を誇るしじみは「小川原湖産大和しじみ」と呼ばれ、身が大きく、味が濃厚。旨味たっぷりの出汁がとれるだけでなく、身もしっかりと味わえるのが特徴です。
「身が大きいしじみがとれるのは、夏ですね。ゆでて開いた時に、貝の中にパンパンに身が詰まっている感じ」と語るのは、しじみ漁師の蛯名俊一さん(47)。「逆に、冬はしじみの身が引き締まって旨味が凝縮する。だから、どちらも美味しいですよ」
自動車の整備士から転身し、約20年にわたりしじみ漁に従事する蛯名さんは、小川原湖産大和しじみの魅力を熱く語ります。
「しじみの味噌汁は全国的に広く食されていると思いますが、うちで作る時はほんの少しだけ味噌を入れて、あとは塩で調整します。小川原湖のしじみをゆでると、お湯が旨味たっぷりのしじみエキスで真っ白に濁るんですよ。それがいいんです。味噌をたくさん入れたら、もったいない!」
蛯名さんのお宅では味噌汁だけでなく、バター焼きやアヒージョなどさまざまな調理法でしじみを楽しんでいるそう。まさに、小川原湖産大和しじみは従来のしじみのイメージを覆す、“食べるしじみ”ですね!
今回、しじみの選別作業をしながら、さまざまなお話を聞かせてくれた蛯名さん。一度に20粒程度のしじみをコンクリートの作業台に落とし、それぞれが立てる“音”のわずかな違いによって、中身が空の貝を選別します。
蛯名さんの家では、選別は主に作業を得意とする奥様が担われているのだとか。素人には判別できない微妙な音の違いを聞き分けながらハイスピードで作業を進める姿は、さすがの一言です!
選別作業で取り除くのは、中身が空の貝だけではありません。しじみの色も、市場価値に関わる大切な要素です。
「黄色味が強いものは選り分けて、市場には出さないようにしています。大きいだけでなく、黒っぽい良い色をしたしじみが理想ですね。しじみ漁では、その辺りにこだわっています」
小川原湖のしじみ漁は午前7時から12時まで行われます。とれたしじみはそのまま選別され市場へと運ばれ、午後2時から競りが始まります。
しじみ漁では、「ジョレン」と呼ばれる先端に長い爪の付いた道具が使用されます。船上からジョレンをひく「船曵漁」のほかに、漁師がウェットスーツを着て湖内に入り腰に付けたジョレンをひく「腰曵漁」があり、後者は「あひる」と呼ばれているそう。
小川原湖のしじみ漁は、1経営体につき1日の水揚げは38kgまでと決められているなど、資源保護のためのさまざまな規制が設けられています。4年ほどの歳月をかけて成長させた殻長15mm以上の大粒の貝のみをとることも特徴であり、小さなしじみを水揚げしないようジョレンの爪の間隔が定められています。
小川原湖では、このような厳しいルールを守ることで、持続可能な漁業を行ってきたのですね。また、ジョレンを使った漁は労力がかかりますが、人の手で作業をすることでしじみへのダメージが抑えられ、外見も良く鮮度の高い状態で出荷できるそうです。
小川原湖のしじみ漁は禁漁期間がなく、年間を通じて漁ができるものの、季節によっては過酷な作業を伴います。
「冬は湖が凍ってしまうので漁に出られる日は限られますが、氷が20cmくらい厚く張って上に乗れる時は、漁に出ます。氷をチェーンソーで割って、氷の中に竿を入れて。マイナス10度くらいの寒さにもかかわらず、汗だくになりますよ」
重労働であり豊富な経験も求められるしじみ漁の現場は、後継者の確保など課題も少なくありません。そんな中、小川原湖では漁協と生産者が一丸となって、水産物の高付加価値化やブランド力向上、積極的な販路拡大に取り組んでいます。
例えば、小川原湖では平成5年に、全国に先駆けてしじみ専用の市場(小川原湖地区卸売魚市場)を開設。湖内でとれたしじみを一元的に出荷する体制により、安定した品質を実現しています。平成29年12月には、このような漁場環境や資源管理型漁業の実践などが評価され、「地理的表示(GI)保護制度」(※1)に登録されました。これにより、豊洲市場関係者の評価が高まり、「粒、品質ともに日本一」と評価する声も上がっているのだとか。
取材の最後に、「ぜひ一度、小川原湖のシジミを食べてみてちょうだい」と笑顔を見せてくれた蛯名さん。熱い想いを持つしじみ漁師が届ける小川原湖の美味しい“宝”は、多くの人を笑顔にしてくれることでしょう。
※1、「地理的表示(GI)保護制度」:その地域ならではの自然的、人文的、社会的な要因の中で育まれてきた品質、社会的評価等の特性を有する産品の名称を、地域の知的財産として国に登録し、保護する制度
《小川原湖漁業協同組合の取り組み》
174人の正組合員と12人の役員、9人の職員から成る小川原湖漁協(令和6年時点)は、資源管理やしじみのブランド化に取り組んでいます。魚価が低迷していた魚種の加工による高付加価値化や「小川原湖産大和しじみ」のGI登録によるブランド力向上、「漁協直送」を活かした積極的な出展による国内外販路の開拓・拡大などの取り組みが奏功し、漁業者の収益向上が期待できるなど、大きな成果につながっています。
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